- ──そもそも、フラカンと大根さん以前に、薮下さんと大根さんの関係の方が長いですよね。最初はどういう接点だったんですか。
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薮下:元々はスチャダラパーだよね。スチャダラのシンコに紹介されて、イベントとかでよく会ってて。当時、大根さんは多分『去年ルノアールで』とか撮ってた頃かな?
- ──ああ、テレビ東京の深夜ドラマ。せきしろの小説で、星野源くんが主演だった。
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薮下:そうそう。で、大根さん、スチャダラのMVも撮ってたし。
- ──大根さん、ゆらゆら帝国のライヴも撮ってましたよね。
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薮下:そう、スペースシャワーの特番の時に撮ってもらって。確か下北沢の飲み屋、“はるがだ”で大根さんに「ゆらゆら帝国のライヴ撮りたい!」って直訴されて(笑)。で、あのバンドの完全なライヴ映像ってあれくらいしかなかったから、結果解散の時にDVDにして出すことになるんだけど。それで、おもしろいクリエイターだと思ってたから、フラカンのMVをお願いして。大根さん、フラカンも好きだって言ってたから。
グレートマエカワ:“この胸の中だけ”ね。「この人どうかな?」って紹介されて。
鈴木圭介:「これを作った人だよ」って、『去年ルノアールで』のDVDを貸してくれて、観たらすげえおもしろくて。
- ──で、その次は、マンガ『モテキ』の第2話で“深夜高速”が使われて、それでテレビドラマの『モテキ』でも使われて。でもマンガで使われた時点では、大根さんは関係なかったわけですよね。
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薮下:うん、偶然ていうか、久保(ミツロウ)さんが描いて、大根さんはまだ読者として、それを普通に読んでた時期だから。そういえばあれ、劇中のテレビ画面で一瞬フラカンのMVが映るじゃん?
グレートマエカワ:ああ、“この胸の中だけ”のね。あれおいしいよね(笑)。
- ──で、その次に大根さんとからむのが……。
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薮下:『深夜高速トリビュート』の時のMV。
グレートマエカワ:鈴木が血まみれのやつ。あれ、大変だったよねえ。
薮下:そう、あれ北関東の某所で撮ってて。ちゃんと許可は取ってあったんだけど撮影が深夜に及んじゃって、近所のおじさんが角材を持って来てさあ──。
グレートマエカワ:「うるせえ、撮影やめろー!!」って。何回も来て、最後にはジェネレーター切られちゃって(笑)。笑ったのが、「うるせえ、やめろ!」って言いながら鈴木のそばまで来たら……。
鈴木圭介:俺、血みどろだからさあ(笑)。おじさん、俺を見て「!」って固まっちゃって。
グレートマエカワ:黙っちゃって。あの間がたまらんかったね。
薮下:で、大根さんが「ごめんなさい、やめます!」っておじさんを帰して、すぐ「はい、スタート!」って(笑)。で、またおじさんが「こらーっ!」って来るっていう。
鈴木圭介:大根さんにやってもらうとね、いつも大変なんですよ。撮影自体が手がこんでるから。何にも考えずに現場に入って、2,3時間で終了、ってわけにいかないから。血みどろになったやつもめちゃめちゃ大変だったし、その前の“この胸の中”だけも、丸1日かかったよね。
グレートマエカワ:刑務所に慰問に行くやつね。あれ、泣けるいいMVだよね。
鈴木圭介:でもあれも、その場でいきなり「はい鈴木さん、ここで前説です、アドリブでエキストラのみなさんになんか言ってください!」とか。わりと、役者的なスタンスでポンポンくるから。あとでできたものを観るとおもしろいんだけど、その時は「えーっ、そんなこと言われても……」っていう。今回のまほろのOPを撮ってる柴田剛さんにお願いした“ビューティフルドリーマー”のMV、逆回しのやつも大変だったしね。撮るのも大変だったし、歌詞を逆回しで歌うのも大変だったし。でき上がりがどういうものなのかもわからないし。完成してみて初めて「ああ、こういうことだったのか」ってわかったっていう(笑)。
- ──で、その次は映画『モテキ』のコンピレーション・アルバムで、フラカンが橘いずみの“失格”をカヴァーした、というのもありましたが。
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薮下:ああ、でもあれは大根さんのリクエストじゃないけどね。「もしもナタリーに就職した『モテキ』の主人公、藤本くんがコンピを作ったら?」っていうコンセプトだったから基本はナタリーの大山くんのアイデア。『モテキ』的世界観の楽曲をカヴァーするっていう、あのコンピレーション自体が。
グレートマエカワ:あれねえ、最初は違う曲だったんだよ。“I'm Proud”(華原朋美)だったの。「いい曲だし、やろうか」って。
鈴木圭介:ちゃんとコピーしましたよ。すごい難しいんですよ、あの歌。もうYouTubeで何回聴いたことか。
グレートマエカワ:最初にさ、ナタリー大山さんの「たとえばこんな曲」っていうリストがあって、その中から選んだけど。「どうせなら、普段の自分らからいちばん遠い曲のほうがおもしろいよね?」って(笑)。
鈴木圭介:で、カヴァーするの、すごく難しくてさ。2,3日かかって、みんなで一所懸命やって、できあがったあとになって、薮下さんが「もっといい曲あった! “失格”やらない?」って言ってきて(爆笑)。
薮下:だってあの曲、映画の中でも、すごくいいとこで使われてるし。オリジナルの橘いずみちゃんの旦那がフラカンの"元少年の歌"を主題歌にしてくれた映画『誘拐ラプソディー』の榊英雄監督だったりとか、何かとフラカンと由縁があるじゃん(笑)
グレートマエカワ:で、「……確かに!」ってなって、やってみたらあっという間にできちゃって。
鈴木圭介:元から知ってた曲だしさ、どうやればいいかもわかるじゃん。歌詞の内容も違和感ないし、演奏も悩まずスッとできて。それで“I'm Proud”はお蔵入り。いまだに1回も披露されないまま(笑)。
- ──で、次がこの、「まほろ駅前番外地」のオープニングテーマ、“ビューティフルドリーマー”になるわけですが。
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薮下:うん。そもそもは、大根さんと映画『モテキ』で色々一緒にやってる中で、「次はこういうドラマをやる」って聞いて。で、「サウンドトラックを坂本慎太郎にお願いしたいんだけど、やってくれるかな?」って相談されて。彼はもううちの所属じゃないけど、「いや、坂本さんだったらやるんじゃない?」とか言ってたら、後日「やってくれることになりました!」って。で、エンディングテーマも彼が歌うって決まってて、オープニングが難航してると。ドラマ自体、非リア充のおじさんの話じゃない? だから、オープニングも大人っぽいキャスティングをしたい、ってことだったんですよ。若いバンドじゃなくて、もう少し大人なバンドで……みたいな話で。「ダメな大人の話なんですよね」「あ、ダメな大人いますよ、うち! ぴったりの負け犬が!」って(笑)。
それで、出演者の皆さんのスケジュールとか大根さんのスケジュールの都合で、あのドラマ、相当前に撮ってるんだよね。昨年の5月とか6月ぐらいかな。「放送は1月からなんですけど」「ずいぶん先だなあ」って。フラカンはアルバム『ハッピーエンド』を作ってた時期だったから、まず物理的に書き下ろせるのか? っていうのが問題で。アルバムは秋に出ちゃうから、その中の曲は使えないし、新たに書くしかなくて。
鈴木圭介:たぶん、アルバムで最後に書いた"エンドロール"よりも、こっちの方が先にできたんじゃなかったかな?
- ──“エンドロール”もだけど、この曲を書くのも、相当大変だったでしょ。
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鈴木圭介:大変だった。
- ──この長いキャリアを振り返っても……。
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鈴木圭介:もうダントツに。だって最終的には、薮さんの家まで行って書いたもん。
薮下:大根さん、難しいリクエストだったの。「今までのフラカンの魅力はわかってる。でもここでやることは、今までのフラカンらしからぬことを、フラカンの方法論でやってほしい」と。最近フラカンは、勝負曲は泣きの曲が多いけど、リフで押すような、古いR&Bみたいな曲とか、洋楽的なガレージ路線のかっこいい曲もあっていいんじゃない? みたいな話になって。70年代テイストの、昔の探偵ドラマを思わせるような。
グレートマエカワ:だから、アンティノス時代(第一次メジャー活動期。1995年〜2001年あたり)にやってたようなことを、今のフラカンで深くやるみたいなさ。
鈴木圭介:昔やってたけど、ここ10年ぐらいでやらなくなってたような。ここ何年かは、曲は全部俺が作ってたからさ。俺が書いてきたフォークみたいな曲を、いかにアレンジしてバンドっぽくするか、っていう作業をしてきたんだけど、この曲はその逆で、まずアレンジとかサウンドのイメージから作っていって。
薮下:演奏スキルとか音楽的引き出しは、昔のフラカンよりも、今のほうが全然あるわけだから。
鈴木圭介:で、これ、最初からテンポがある程度決まってたんですよ。
グレートマエカワ:BPM120前後っていうのが。
鈴木圭介:で、「尺は90秒です」って。その時間内で、印象づけなきゃいけないからサビから始まってほしい、で、サビ1回だと物足りないから、もう1回サビが出てくるように、とか。だから、イントロにリフとか入れるとあっという間に終わっちゃうから、もういきなり歌うしかない、っていうふうに、曲を作る上での制約がすごいあって。
薮下:フラカンのデモに合わせてオープニングの、あの逆回しの映像が先に進行してたんだよね。だから、もうテンポと尺が決まってて、それに合わせて作るしかないっていう。
- ──そういうの、得意な人もいますけどね。
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鈴木圭介:いるけどね、俺は「どうすりゃいいんだ?」みたいな感じで(笑)。いや、それでも、曲は意外とスッといったんですよ。アルバムのレコーディングの最中だったから、俺、創作のチャクラみたいなのが開いてる時で。曲の断片みたいなのもいくらでもあったから、言われた3日後くらいに、何曲か形にして出して、その中から「これがいいんじゃないでしょうか」って。それをブラッシュアップして、メンバーにもアイデアを出してもらって、わりとすぐ、今の形ができたんだけど。
ただ、歌詞が……まず、最初に出したやつは、薮下さんに「言葉がきたない」って言われて(笑)。
薮下:「残尿感」とか(笑)。
鈴木圭介:「燃えカス」とか、どぎたない言葉の連発で。わりと自分的には、「これ、いいな」と思ってたんだけど。
グレートマエカワ:たぶん、大根さんの、「今までのフラカンじゃないけどフラカンらしい」っていうところで言うと、今までのフラカンが残りすぎてたんだと思う。
鈴木圭介:だからもう、何度も何度も書き直して。サビの「ハッピーじゃない ラッキーじゃない」だけは残ってるけど、そこ以外はもうほとんど変わってる。
薮下:三浦しをんの原作とか映画の方には、その感じが合ったかもしれないけど、ドラマはそれと比べるともっと軽妙というか、スラップスティックなバディもの、コメディタッチな感じもあるし。それと比べると、ちょっと負け犬感が強すぎるっていうのが大根さんの意見だったんだよね。
- ──そういう制約だらけの中で、何度もボツを出されて、心は折れませんでした?
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鈴木圭介:折れましたよ!(笑)。
グレートマエカワ:折れないはずがないっていう。
鈴木圭介:さんざんボロクソ言われましたもん。最終的にはうまくいったからよかったけど、もう頭抱える感じで……俺、4,5回、ジョナサンで朝を迎えたもん。ちょうど"エンドロール"を書くので、悩んでた時期でもあったから、よけいもうねえ……。
薮下:たぶんね、“エンドロール”とこの“ビューティフルドリーマー”が、新しい鉱脈なんだよね、フラカンのこれからを占う。
鈴木圭介:そう、切り替えの時期っていうか。これまでの手クセとか得意技じゃない方法で、いかに新しいことをやるか、っていうのが2連続で来ちゃったから。しかも、作業が押したから、ツアーの時期になだれこんじゃって。ツアーをやりながら……ああ、結構憶えてるなあ(笑)。広島の2デイズ、1日目が終わってすぐにホテルに帰って夜中に書いて、次の日ライヴ終わったら、俺だけ新幹線で移動して、先にホテルに入ってすぐ書いて、みたいな。
グレートマエカワ:で、そのツアーのリハを、スタジオでやっとる時もさ……。
鈴木圭介:「歌詞を新しく4パターン出してくれ」って言われたのね。その締切りが5日後で、その5日後までにツアー3本入ってるの。「これどう考えても無理だろう!」って、そのメール見て、俺、初めて携帯を投げたもん。でも壊れるといけないから、そっと投げたんだけど(笑)。
グレートマエカワ:で、携帯投げて、スタジオを出て行っちゃって。俺らはそのままリハやってて……あいつ、荷物とかもそのままでかっこよく出てっちゃって、どうするんだろうと思ってたら、俺らがリハ終わって帰ったあとで、そっと荷物を取りに行ったんだって(笑)。
鈴木圭介:それで、村井さん(A&Rディレクター)に電話して、わりとごねて。「仕事として書くけど、自分の曲としては使いたくないから、シングルで切らないでくれ!」「それはありえない!」とか、もめて。
- ──その「シングルにするな」っていうの、全然わかんないんですけど。
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鈴木圭介:いや、だから、このスケジュールで、自分を殺さないで、しかもこれならOKって言われるものを書くのは、無理だと。自分の持ち味が強すぎるから、フラカンの鈴木圭介が書かない歌詞を書いてくれ、って注文だったのね。「それもう俺じゃないじゃん!」って。こんなスケジュールで、俺じゃないものを書いてくれっていうのは、もう無理だ。だから、人に曲を提供するみたいに書くけど、それはもう自分じゃないから、シングルにしないでくれ、って言ったの。で、その時はワーッてなってたけど、しばらくしたら冷静になってきて。もともと、シングル出してくれるっていうのに出したくない人なんていないでしょう(笑)。こっちは20歳で組んだ時から、ずっと売れる気満々でやってきてるわけだしさ。
薮下:だから、フラカンの世界観を全否定してるわけじゃ全然ないのに、その時はもう袋小路に入っちゃってて、一度書いた歌詞を何度推敲しても、変わりばえしなかったの。そういう時って、もうガラッと発想を切り替えて、幾つかパターンを変えてみたほうがいいじゃん。だったら、まったく新しいものを何パターンか書いてみて、その中から「ここのフレーズ使えるじゃん」っていうパーツを組み合わせて編集していけば、本人らしくて新しい歌詞になるんじゃないかな、っていう考えだったの。
鈴木圭介:で、結局やったんだよ。宿題はやっていくタイプなので。4パターンじゃなくて、5パターン書いていったんだけど、もうダメダメで。結局アングル1コしかなくて、自分ではどれがいいんだか悪いんだかの判断もつかなくなっちゃってて。
で、それを提出したら、薮さんからものすごいきついリアクションがメールで返ってきて。書き出しが「正直がっかりしました」って(笑)。いちばん俺がきつかったのが、その5パターンのうちのひとつに対して、「これ、小学生の作文ですか?」っていう。
薮下:はい、そう書きました(笑)。
鈴木圭介:「このパターンに関しては、もう全面的に否定します。小学生の作文ですか?」って。それがいちばんガーンときたんだけど。でも、「こういう曲はもうさんざん書いてきたんだから、新しい何かを見つけないと置いてかれるよ?」っていうような、そういう深い話に、だんだんなってきて。で、「どうしようかなあ」って言ってるうちに、薮さんが、「その5パターンの中から、俺がいいと思ったところを組み合わせてみたんだけど、こういう形はどうかな?」っていうのを作ってくれて。それを見たら「ああ、なるほど!」って、ちょっと光が見えて。それをさらに、スタジオでふたりで「ここをこうしよう、ああしよう」って直していって、それで完成したんだけどね。
薮下:だから、最初はフラカンらしい心情吐露的な歌詞で、どう考えても主人公は自分、っていう曲だったのね。でも、ドラマのストーリーがあって、しかも……メンバーには聴かせてなかったけど、俺は坂本慎太郎のエンディングテーマのデモも聴いてたから、それに対してこの曲じゃあ、合わないなと思ったの。坂本さんの劇伴もエンディングテーマも、ドラマに合っていて、明らかに震災以降であるってことも押さえてて、今の時代感とか、再生感みたいなものも入っていて、すごくよかったんですよ。
- ──ああ、「これでは負ける」と。
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薮下:うん。「さすがフラカン、ドラマにぴったり合ってんな!」ってものにしないと、逆に取って付けたようなタイアップ感丸出しになっちゃうな、それはかっこ悪いな、と思って。だから、そこはすごいこだわったんだよね。で、最終的には、こだわったかいがあったものになったよね。ちゃんと圭介の言葉でフラカンの新しいフェーズを提案出来たんじゃないかな?
鈴木圭介:うん。薮さんが過去に手がけてきたアーティストで、その人の代表曲になってたりする曲が生まれる時って、いつもみんなそういうふうに悩みながらやってきたんだ、自己模倣に陥らないプロの仕事というのはそういうもんだ、っていう話も、前から聞いてたしさ。で、エンジニアもここから変えたりして、だからほんと、“エンドロール”とこの曲が、切り替えの時期なんだよね。
あと、この曲、90秒で、BPM120で、サビが2回きて……ってなると、少ない言葉数しか入らないんですよ。俺、最近、言葉数がどんどん増えていて、量は書けるけどとどめがなかなかこない、っていう傾向にあって。“エンドロール”も長いけど、あれも、あの3倍くらいあったのを削って削って、あの形になったんだけど。だから、さらにこの曲は、とにかく削って、最小限にしていって。よけいなものをどんどん落として言葉の余韻っていうか行間で聴かせるというか…。
薮下:「ハッピーじゃない ラッキーじゃない」っていうフレーズと、「ちょっとずつ 過ぎ去ってた未来に」っていうフレーズに、大根さんが「ここがいいね」って反応してて。その2箇所に寄せていって作っていった感じ。最初は、全体的に、もうちょっと暗かったんだよね。暗闇に迷い込んで出れないみたいなニュアンスで。
鈴木圭介:うん、めちゃくちゃ暗い歌詞だった。
薮下:でも、『まほろ』の舞台の町田っていう街も、震災以降の今のこの感じもそうだけど、なんていうか……暗闇ですらない、っていうか。もっとこう……何もないというか、絶望ですらない、ただ曇り空の寂寞としたイメージしかない、って大根さんは言ってた。そこに寄せていったんだよね、この曲は。絶望ですらないただ過ぎ去っていく日々、暗闇じゃなくて曇り空、みたいな。
鈴木圭介:俺は『傷だらけの天使』の最終回の、あのイメージだったんだよね。
- ──ああ、確かに全体に『傷天』オマージュ感のあるドラマですよね、坂本慎太郎の劇伴も含めて。
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鈴木圭介:そうそう。でもそれ、ドラマを観るまで知らなかったからさ。でも、だから、そのへんの、そもそものイメージは合ってたってことだよね。
グレートマエカワ:で、今回組んだ、エンジニアの佐藤(雅彦)さんがすごいよくてさ。いいアイデアいっぱい出してくれて。曲自体はさ、俺らが昔、アンティノスの頃にやっとって、そのあといろんな理由であんまりやらなくなっていったタイプの曲と、近いところもすごくあるんだけどさ。でも、当時、やってみるんだけど、なんかいまいちだな、どうも思ったほどいい感じにならんな……って思ってたのが、佐藤さんがひとり入ったことによって、いとも簡単にこんなおもしろいことができるんだ、っていうのは、すごい思った。
それは、アンティノスの頃の6枚のアルバム、どの曲にも言えることで。曲、いいんだけど、どれも気に入ってるんだけど……もっとよくなるはずだ、もっとよくできるはずだ、でもどうやったらいいかわからん、っていうのが、どこかにずっとあってさ。それが今、「ああっ、こうやればよかったんだ!」っていう。そういう曲になってるんじゃないかな、これは。メンバーも当時の力量じゃ無理だったし、佐藤さんみたいなスタッフもいなかったし。それが、今、ようやくできたっていう。
だから、かなりシフトチェンジできたんじゃないかと思う。元々、俺らが今のレーベルと契約して、メジャー復帰した理由もそこだしね。ライヴいっぱいやってるし、アルバムもまあまあ作れとるんだけど、自分たち4人だけでやっとると、これ以上あんまりアイデアないな、と思ってさ。なんか外からもアイデアがほしい、俺らこれ以上まだ伸びしろがあるんじゃないか、と思ってたしさ。で、新しいスタッフとやりたいと思って契約して、だんだん、ちょっとずつそういうことができるようになっていって、それが“エンドロール”と“ビューティフルドリーマー”でドカンといったというか。これで本気で変われるぞ、得意なこともやりつつ新しいこともできるぞ、っていう感じになったね。
構成=アズマタカオ